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中田 宏が登場した、雑誌・テレビ・ラジオなどのメディアをレポートします。

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逆境の時こそ、日本人の真価が問われる。 前編

『ジャパニスト』第3号(2009年10月発行)掲載記事
対談:経営コンサルタント 大前 研一 × 中田 宏


危機感が欠落した日本人

中田 今から二十年前、私は大前さんの『新・国富論』を読んで感銘を受けた人間ですが、どうしてこの国の政治はあの本に書かれているようにできないと考えますか。
大前 この国の基本的なシステムはずっと変わっていません。むしろ悪くなっていると言っていい。私が平成維新を立ち上げた頃は、弁護士や大学の先生など、それなりに志のある人たちが集まってきましたが、彼らは各種の審議会の委員などをやらされるうち、自分たちが批判している勢力に取り込まれてしまいました。
中田 改革の必要性を論じていても、根本的な改革は何ひとつ進んでいない。日本は有史以来、長い歴史をもつ国ですが、例えて言えば、今の日本はどの時代に似ていますか。
大前 元禄時代です。楽しいもの、旨いものばかりに意識が向いていて、退廃の極みと言えます。私は日本の歴史の中で、三つのポイントに着目しています。ひとつは、大化の改新。あれは渡来人の発想や武力などが土着の日本民族と混じり合い、大和となって新しい国家建設が始まるきっかけとなりました。外国の文化とうまく融合して新しい形を創った最初のケースです。次いで明治維新ですが、私は特に井伊直弼が素晴らしかったと思います。彼の開明思想は群を抜いていました。やがて開国する時に必ず有為の人材が求められるということをわかっていて、そのために諸大名から情報を集め、有力な若い人材を抜擢したのです。そのメンバーであった勝海舟や福沢諭吉が後に咸臨丸に乗ってアメリカへ渡り、西洋文明を学んできます。
中田 今、日本全国から最も有能な若者を二十人選べ、と言われたら、かなり難しいでしょうね。
大前 当時は優れた人材を登用するための情報網がかなりしっかりしていたのでしょう。ただし、幕府は自己否定ができず、他人に否定され、倒されてしまいました。しかし、その後活躍したのは井伊直弼らが選んだ若い人材です。
 それから三番目のエポックは、戦後、松下幸之助や本田宗一郎が海外へ出て行って、勝負したことです。彼らは学校も行っていなくて英語もできなかったのに、アンビションが非常に強く、海外で勝負することを怖れていませんでした。
中田 共通するのは、外国との接点があったこと。そして、時代の先をよむ人物です。
大前 松下や本田は、いわゆる学校秀才ではなくストリートスマート。時代を大きく変えていくためには、そういう気概が必要なのです。しかし、今は不幸にも元禄時代の精神に戻ってしまいました
中田 多くの日本人はそういう現状をどう思っているのでしょう。このまま将来もなんとかなると思っているのか。あるいは、そういうことには関心がないのか。
大前 危機感がないのです。このままではやがて飢えてしまうという危機感がまったくありません。昔は農民であっても食いつめたらハワイやペルーやカリフォルニアへ行って飢えをしのがなければならなかった。日本政府も国民全員を食べさせることはできないからと言って、棄民政策をとっていたくらいです。今、出稼ぎという言葉を聞かなくなりました。冬、北海道へ行ってパチンコ店を覗いてごらんなさい。人がいっぱいです。冬は雪で仕事ができないからと援助奨金をもらって日がな一日パチンコですよ。とても危機感がある国の姿とは思えません。
中田 日本の財政赤字は途方もない額です。やがて国債が暴落してハイパーインフレになり、食糧難になった時どうしようか、というイメージをもっている人は少ないのでしょうか。
大前 優れた経営者は、このままの状態が続くと会社がダメになるという危機感を社員に植えつけることができる人です。カルロス・ゴーンもはじめに危機感を示し、行動し、会社を立ち直らせたのです。危機感をもたせる最大の切り札は、恐怖感です。マッカーサーが来た時も同じだったでしょう「なんちゃって恐怖感」ではダメなんです。こいつは本気でクビにするかも、血を流すかも、と本当の恐怖感を味わった時、危機感が生まれ、状況を変える力が生まれるのです。じつは日本人はそういう状況に追い込まれると強い。戦後もそういう危機感を抱いて復興したし、日産もV字回復しました。
中田 私も横浜市長時代は強烈な危機感を抱き、このままでは市の財政が破綻してしまう、そうなった時、いちばん困るのは市民だ、という意識でさまざまな改革に手をつけてきました。その間、誰よりも仕事をしてきたつもりです。しかし、一方で何を言ってもまったく危機感をもたない人もかなりいました。
大前 ゴーンの改革がなぜ成功したかと言えば、社員をクビにする人事権をもっていたからです。クビにされて路頭に迷ったら飢え死にするかもしれないという危機感が行動そのものを変えるのです。
中田 でも、危機感をもたせ続けるのは容易なことではありませんね。
大前 日本という国はゼンマイみたいなもので、何かが行きすぎるとクルッと戻ってしまう。役所のシステムがまさにそうなのです。今頃、横浜市の職員たちは中田さんがいなくなってホッとしているんじゃないですか。
中田 このままわが国の国民が危機感をもたず、改革を先延ばししたとすると、この国の行く末をどう表現しますか。
大前 間違いなくポルトガルのようになるでしょうね。ポルトガルはかつては世界の海を支配していましたが、今ではヨーロッパの小国です。
中田 私も同感ですね。いつもそう言っています。平成元年にポルトガルを訪れたのですが、街は煤けて道路はボロボロ、国民に活気がなく、国ってここまで落ちぶれるのかとまざまざと痛感しました。
大前 今はその頃より少しマシです。EUに加盟したことによりブリュッセルから補助金をもらえるようになって、少しインフラ整備ができました。しかし、そこまでです。自ら頑張って国を立ち直らせようという気概はありません。ちょうど、日本の地方都市が国から補助金をもらってホールを造っている構図と同じです。
中田 日本のポルトガル化はどのくらいで進みますか。
大前 今からわずか四十年後の二〇五〇年、日本の人口は八千万人を割りますが、ピーク年齢、つまり最も人口の多い年齢層は八十歳です。警察官、消防士、自衛隊など、若い人しかできない仕事に若い人材を送り込むと、経済活動を担う若者がいなくなります。私はそれを芋虫のような人口動態と言っています。じつは、ある程度富を残している芋虫のような国が外敵から乗っ取られる確率が高いのです。
中田 では、どうすれば、そうならずにすみますか。
大前 先ほども言ったように、危機感が国民にない状態ではけっして変わることはできません。ひとつだけ例外的に考えられるのは、サッチャーのような危機感をもった人材が現れ、その人の主導のもとに改革を進めるということでしょう。サッチャーが首相に就任する前、イギリスは労働党政権で社会主義のような国でした。金持ちに膨大な税金をかけたため、いい人材や企業がどんどん国外へ流出したのです。サッチャーは七年間、徹底的にスモールガバメントを研究していました。それはもう狂信的と言っていいほど「小さな政府」の信奉者であり、迷わずそれを実行したのです。
中田 金持ちを貧乏にしても貧乏人が金持ちになるわけではない、と言いました。
大前 徹底的に改革を進め、なんと刑務所まで民営化してしまいました。じつはサッチャー改革の反動で、彼女はもうすぐ罷免されるところだったのです。それを救ったのが、アルゼンチンで起きたフォークランド紛争です。サッチャー政権は王室まで巻き込み、軍隊を派遣して一、二週間で勝利を収めました。その時、イギリス国民は、まだイギリスには戦う力があるということを知り、それから後、サッチャー政権を支持し、大胆な改革を後押しするのです。
今の日本が衰退の道を回避できるかどうかは、サッチャーのような優れた改革者が現れるかどうか、でしょう。総選挙の結果、民主党政権が誕生しましたが、「大きな政府」路線は自民党と同じです。世界の趨勢と比較すると、明らかに逆行しています。すべての国民を救ったからといって、国が良くなることはないのです。

“切る”勇気

中田 ところで鳩山首相はサッチャーのような改革ができますか。
大前 条件的に言えば、鳩山政権はサッチャー政権より支持率が高いのですから、その気になればできないことはありません。過去の政権を見ても、細川、小泉政権の時は高い支持率を背景に、かなり思い切ったことをやれたはずです。しかし、結果的に日本の仕組みを変える改革はできませんでした。
中田 今まで二回空振りして、今回空振りすると三振ですね。
大前 民主党は組む必要のない相手と組んでいます。三〇九議席もとったのだから、連立などを考える必要はないのです。参議院の議席のことはどうにでもなりますよ。それなのに連立を組んでしまった。つまり、それでわかることは、切るべきものを切ることができないという民主党の限界です。自分たちの描いたビジョンにのっとって、さまざまなものを切ることによって、ピュアな改革ができるのにそれができない。
中田 事実、民主党の政策を見ても、切ることより与えることに熱心ですね。
大前 そもそも友愛という理念がわかりません。「友愛」を選ぶことによって、何を捨てるのか判然としないのです。友愛には対立概念がありません。「私の名前は鳩山由起夫です」と言っているようなもので、それを聞いた人は反対しようがない。東アジア共同体構想にしても、対立概念もなければモデルもありません。どの国が含まれるのか、どういう姿を目指すのか、まったく曖昧なままなので、中国は否定も賛成もしようがない。一方、オバマ大統領は、演説で明確な理念を国民に示しました。それまでのアメリカ一国主義を捨てる、と言ったのです。いわば、アメリカを自己否定したわけです。その上でイエスかノーかを国民に問うた。しかし、友愛がいいと言われても、どのような政治を目指しているのかわかりません。
中田 日本の政治は「絞り込む」とか「切り捨てる」ということが苦手ですね。大前さんは保護型社会から自立型社会への転換を主張されていますが、国民が自立するために今までのように国に依存するばかりではダメだと思います。国が国民に自立を促すということは、どういうことですか。
大前 簡単に言ってしまえば、機会は均等に与えるが、できなかったら捨てるよ、と明言することです。さらに、衰える地方や産業は救わないということです。その上で、どうしても生活に行き詰まった場合は、国が最低生活を保障しますよ、と言えばいいのです。今はとんでもない競争排除社会です。これでは世界の中では生きていけないし、全国民が共倒れになってしまいます。
中田 しかし、現状はますます悪平等が進んでいます。
大前 頑張って能力を磨いた人をきちんと評価すべきです。最低時給を千円以上にしろとか二回目の派遣の時は正社員待遇にしろとか、余計なお世話です。そんなことを言っていたら、企業経営がなりたちません。戦後、バイクがたくさん売れた頃、国内にいくつのバイクメーカーがあったと思いますか? 二百六十五社ですよ。それが今では四社に集約されています。つまり二百六十一社は淘汰されたわけです。自立型社会にするためには、過度に救済してはいけないのです。借りたお金は三年間、元金も利息も返さなくていいなどと、とんでもないことを言っている政治家がいますが、そんなことがまかり通ったら努力する人が報われません。
中田 今、日本では格差社会と言われていますが、本当に格差社会なのですか。
大前 その片鱗さえありませんよ。日本が格差社会だと言っている人は、本当の格差社会がどういうものかわかっていないのでしょう。ロシアの男性の平均寿命は五十九歳です。競争に敗れた人は長く生きていけない。そういう国はたくさんあります。日本ほど何もかも守ってくれる国はほとんどありません。
中田 そうは言っても、大前さんは優秀だからそう厳しいことを言う、という反論が返ってくるはずです。
大前 優れた人材が出てくる社会にしないと、これからの国際競争に負けてしまい、国民全員がひもじい思いをすることになると言いたいのです。今の日本は明らかに、結果不平等です。課税最低限が高く、ほとんど税金を払っていない人がたくさんいる反面、死ぬほど苦労してお金を得ても半分税金でもっていかれてしまう。こういう社会ではなかなかモチベーションはあがりません。今また民主党内には所得税の上限を上げろ、という議論が出てきています。すでに世界最高の所得税率と法人税率ですが、さらに金持ちから取れ、と人気取りに走っています。
中田 偉くなっても報酬が少なく、責任だけ増えるのは嫌だという若者が増えているのも仕方のないことかもしれません。その上、日本はリーダーを輩出する教育をしていません。
大前 韓国の教育熱は凄いですよ。ちょうど四十年前の日本と同じです。「四当五落」と言って、五時間眠ったら受験に失敗してしまうという猛烈な受験競争社会です。
中田 日本の経済モデルを追って成長する国が、これからどんどん増えるのでしょうね。
大前 日本のような加工貿易産業立国はアンビシャスな国にとってはコピーしやすいのです。しかし、それが一度根づいてしまうと、クリエイティブな方向にシフトするのも難しい。かつての日本、今の韓国や中国などの教育の対極にあるのが北欧型の教育です。詰め込みをやらず、考える力だけを教える。しかし、日本でそういう教育をすることはほぼ不可能と言っていいでしょう。なぜなら、答えがないことを教えるのはとても難しいからです。答えがないものを教えられる教師は今の日本にはほとんどいませんよ。生徒といっしょに考え、なんらかの着地点までもっていかなければなりません。指導要領に「教え方の答え」まで書いていないと日本の教師はまったく無能です。
中田 閉塞社会の中で、自由な発想の若者が増えているという一面もあるようですが。
大前 自由な発想には、(必要、十分条件を満たした)構想力のともなったものと、ただの白昼夢の二つがあります。ビジネスにするには構想力が要ります。私もふだん多くの若者と出会いますが、一見自由な発想のように見えて、少し踏み込んだ質問をすると皆ひっくり返ってしまいます。マンガの読み過ぎではないか、顔を洗って出直して来い、というレベルのものが大半です。
中田 たしかに日本にはそういうトレーニングをする場が少なすぎますね。
大前 麻生さんが二兆円の定額給付金をやりましたが、私なら一千万円の資本金を二十万人に配りますよ。仮に千分の三が成功するという(センミツの)法則にのっとれば六百社が成功します。国民全員にバラまくより、こっちの方が断然国のためになるし、結果的に国民も多くの恩恵を受けるはずですし、日本も明るくなります。そういうことをサッチャーはわかっていました。
彼女は、世界的なコンサルタント会社に「将来を担う若者をただで貸してほしい」と言って、七人の三十代の若者を集めました。そして、毎週火曜日の午後はその若者たちのグループ(ポリシーユニット)とだけ仕事をしたのです。彼らも意気に感じて、凄い仕事をしました。その結果、金融ビッグバンやさまざまな民営化、イギリスの戦略的産業政策など、重要なことを推し進めていったのです。時間とお金をどこに集中投資すれば国は発展するのか、明確にビジョンがあったからできたのです。